迷宮階段
「それって自由にさせてくれるってこと?」
「うん。小言を聞いたことってないかも」

「それって最高じゃん!」
 宿題をしなさい。部屋の掃除をしなさい。ご飯はゆっくり食べなさい。化粧はほどほどにしておきなさい。

 思いつくだけでももっともっと沢山の小言を言われてきた。思い出すだけでげんなりしてきてしまう。
 今日は帰ったら部屋の掃除をしておかないと、また小言を言われるはずだ。

「そうかなぁ?」
 香には実感がないようで、しきりに首をかしげている。

「家でなにも言われないなんて最高だよ? 変わって欲しいくらいだよぉ」
 自分でそう言った瞬間、ハッと息を飲んでいた。
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