迷宮階段
 お母さんはまだベッドの中にいて、怠慢な動きで寝返りを打ってこちらを見た。その顔に思わず悲鳴を上げてしまいそうになり、慌てて飲み込んだ。

 そこに寝ていたのは見知らぬ女性で、年齢だけは私のお母さんと同じくらいだということがわかった。
 そうだった。昨日、お母さんを交換したんだ。ということは、今ここにいる人が小野有花ということになる。

「なにって、朝ごはん代に決まってるじゃない」
 お母さんは大あくびをして答える。まだまだ眠そうで目が細められている。

「あ、そうなんだ」
「そうよ、何言ってるの真美」

 クスッと一度笑ったかと思うと、すぐに寝息を立て始めた。
 そうか、これが私の朝ごはん代なんだ。納得してキッチンへ戻る。

 お父さんはもう出勤したのか、どこにも姿がなかった。
「ま、いっか。朝から好きなものを食べられるなんてラッキー」

 私は鼻歌を口ずさみながら家を出たのだった。
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