迷宮階段
 四時四十三分。あと一分!
 私はその場で何度も足踏みを繰り返す。

 これをしてしまえば自分の両親は本来の両親ではなくなることになる。親が全くの別人になってしまうというのは、どういう気持になるだろうか。

 少なくても今はとても楽しみだけれど。
 そして、スマホの時計が四時四十四分になる。私は大きく息を吸い込んだ。

「父親の榊原誠を桃尾和夫に交換」
 自分の声だけが階段に響く。それはやけに大きく響き渡り、反響した。

 ゾクリと一瞬背筋が寒くなり、四時四五分になった頃私は逃げるようにその場を後にしたのだった。
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