迷宮階段
「もしもしお母さん? うん、今から帰るよ」
 香の声はつまらなさそうだ。

 一方、私のスマホはうんともすんとも言わない。
 お母さんはきっとまたリビングのソファでテレビを見ているんだろう。その姿はすぐに脳裏に浮かんできた。

「ごめん。もう帰らなきゃ」
 香が残念そうに呟く。

「そっか。門限だもんね」
 私は何度も頷いて見せる。

 友達がまだ遊んでいる中、一人だけ帰るのはとても残念な気持ちになることを私はよく知っていた。
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