迷宮階段
 これからみんなはまだ楽しむんだろうな。どんな話をするんだろう。もし、私の陰口とか言われていたら嫌だなぁ。
 香はきっとそんなことを考えている。それが手にとるように理解できた。

「また学校でね」
 私は安心させるように香に声をかける。

 香はようやく笑顔になって「うん。またね」と、手を振って家に向けて歩いていく。一人で帰る寂しさも、私はよく知っていた。

 香の姿が見えなくなるまでみおくって、私は仕切り直しのように麻衣へ視線を向けた。
 今日、麻衣はほとんど言葉を発していない。いつもみんなの後ろに隠れるように立って、楽しんでいるのかどうかもわからなかった。

「これからご飯行く? おごってあげるよ?」
 私はそんな麻衣へ向けて微笑んだのだった。
< 89 / 164 >

この作品をシェア

pagetop