迷宮階段
そんな会話が聞こえてきてすごく耳障りだ。
 元々海人は私の彼氏で、それを奪ったくせに! 喉元までその言葉がでかかるけれど、グッと押し戻す。

 人を交換するたびに周囲の人たちの記憶は書き換えられているから、海人を奪ったことだってもうみんなの記憶からは消えているはずだ。

 麻衣は海人と会話しているときに時々こちらを見つめている。
 私と目が合うと、ニヤリと笑ってみせるのだ。まるで見せつけるように身を寄り添わせているときもある。

 クラスの人気者という位置を私に奪われても、麻衣の根本的な性格は同じらしい。
 なにかひとつでも人より優位なものを見つけて、これみよがしにアピールしてきている。

「嫌な女……」
 トイレの個室に入った私はギリッと歯ぎしりをして呟いたのだった。
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