迷宮階段
☆☆☆

 麻衣の存在はまさしく目の上のたんこぶだった。それさえなければ私は幸せの絶頂にいるはずだった。
 憧れの存在だった麻衣は今では私にとって邪魔以外の何物でもなかった。いっそ、麻衣を他のクラスの子と交換してやろうかと思ったりする。

 そんなときだった。
「榊原さん、今日も宿題を忘れたんですか?」

 甲高い担任教師の声が教室に響いて私は我に返った。今は朝のホームルーム中で、みんな宿題のプリントを提出したところだった。

「はい、忘れました」
 昨日も放課後遅くまで遊んでいたから、宿題の存在をすっかり忘れていた。家に帰っても誰もなにも言ってこないから、そのまま学校に来てしまったのだ。

「最近多いですよ、どうしたんですか?」
 担任の矢沢先生は神経質にメガネを何度もお仕上げて険しい目つきを浮かべている。

 どうしたんですかと言われても、毎日遊ぶのに忙しくて忘れました。なんて言えるはずもない。
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