溺れるように愛して
「全ての人間を捨てて逃避行していくか、結婚して身分の差をなくすか、ってとこじゃない?」
「……ふーん」
「納得のいってない様子が丸分かりね」


夏目くんと逃避行というのは出来ない。かと言って結婚も出来ない。
となると紗子からアドバイスをもらおうとしたわたしは間違っていたらしい。


「なに?その好きな人とは身分の差なんてものがあるの?」
「ある。とてつもなく埋められそうにない差が」
「大変ね」
「他人事だと思って」
「他人事だから」
「ん?何の話?」
「それが――」


すっと、なんの違和感もなく登場した男子制服の姿に思わずハっとする。

顔をあげれば「ん?」と首を傾げた川瀬くんと目が合う。


「あ……いや、」
「身分の差がどうって聞こえたけど」
「っ、そう、だねぇ。そんな話の本を、今紗子が読んでて」



ちらり、と。目配せをしたわたしに彼女は色々と察したようで「そう。川瀬くんも読む?」と話を合わせてくれている。
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