溺れるように愛して
「いてよ」
「ん?」
「まだ」


そう聞こえた、はず。確信が持てなかったのは、珍しくぼそぼそと喋るから。

消え入りそうな声だけがしーんとした室内に響く。


「なつ――」


状況が変わったのは、そのすぐあと。

か弱く繋がっていた手首を、彼は勢いよく自分の元に抱きよせるみたいに引っ張って。

バランスを崩したわたしの体はそのままダイブするように胸の中に飛び込んで。


「――め、くん?」


気付けば彼のベッドの上で、ぎゅっと抱きしめられていた。
あの日、彼に後ろから抱きしめられたあの日のように。


「……いてよ」


そう、掠れた声が鼓膜を揺らしては、熱を帯びるように残った。
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