溺れるように愛して
「心配してくれてるんだ、優しいなぁさえちゃんは」
「その呼び方気持ち悪いからやめろって言ったでしょ」
「いいじゃん、昔みたいに呼び合おうよ。さえちゃん、あまちゃんって」
「口を閉ざさないと、過去の恥ずかしい話を暴露するわよ」
「ごめんなさい、嘘です、紗子、天音の関係でこれからもよろしくお願いします」


余程気に喰わないのか、チっと舌打ちまでつけた彼女は少しご立腹。

いつからだったか「さえちゃんって呼ばないで」と言われたことをきっかけに、このあだ名はタブーとなっている。


恥ずかしいのだろうか。可愛いけどな。懐かしいな。

ようやく辿り着いた実験室。扉を横にスライドさせれば、同じタイミングで室内から出てくる人影。

ぶつかる寸前に香った匂いに唾を飲む。


「あ、ごめん」
「……ううん」


向こうから出てきた夏目くんとの距離が近くて、思わず視線を外す。

こんなにも近いのは初めてじゃない。でも学校だと初めてで。
< 149 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop