溺れるように愛して
夏目くんの事は好きだ。

こんな風に、すぐさま彼へと意識が飛んでいってしまう程に。

椅子から見上げるようにして顔をあげた先には、視線をどこに置いているのか分からない瞳が映し出される。

見ているようで何も網膜に写していないような、思いを馳せるような横顔だけが、ただ静かに佇んでいた。






着替えを済ませ教室に戻れば、以前にも似たような視線が容赦なくぶつけられた。

居たたまれない気持ちを隠すように、少し足元の不便さを感じながら席へと着く。

そんな周りの状況をかっ飛ばすように、一目散にわたしの元を訪れた約2名。


「大丈夫?足引きずってるけど」
「大丈夫だった?」


紗子と川瀬くんの登場、そして発言のタイミングが見事に一致し、思わずほころぶように笑みを浮かべる。


「うん、捻挫ではないと思うけど、ちょっとかばうように歩いちゃってる」


怪我の状態などの説明を軽く伝えれば「よかった」と紗子。「もう本当にびっくりしたんだからな」とあの時の事を話してくれる川瀬くん。

この二人だけは、わたしを変な目で見ない。それがとてもありがたい。
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