溺れるように愛して
そのまま滞りなく授業を終え、放課後を迎えたわたしは、紗子に短めの挨拶を告げてはバス停へと向かった。

夏目くんと同じバスに乗れると思っていたが、サボった追試の件について呼び出しを受けていたのを見た。

何度か後方を確認しながら夏目くんが現れるのを待っていたが、バスは時間通りわたしの前へと停車した。

先に彼の家に行って待っていよう。きっと次のバスには乗ってこれるだろうし。


バスに乗車しては、彼がいつも降りる駅へと向かい、見慣れた道を一人静かに歩く。


頭の中では、あの会話の続きを聞けるんだろうかとか、わたしの告白みたいな発言をどう受け取ったんだろうかとか、そんな事ばかりが支配するように蠢いていた。


その蠢きを掻き消すように何度訪れたか分からない彼のマンションへと到着する。

ロビーへと入り暗証番号を打ち込めば、外からの人間の侵入を許可するよう透明なガラスドアが左右に開いていく。

住まいでもなければ、家族や友達の家でもない。ただのクラスメイトのマンションの施錠番号を把握してるなんて、よくよく考えればおかしな話。

エレベーターに乗り込み、いよいよ彼が住居とする部屋へと到着――だった。
< 204 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop