溺れるように愛して
何を、どう、反応すればいいのか、目の前の光景を見て分からなかった。

束の間の静寂は戸惑いの心の揺れさえ、鼓動となって聞こえてしまうんじゃないかと言う程。



「――……なんで、ここに」



緊張で張り詰めた空気を壊したのは、夏目くんだった。

わたし以上の戸惑いがその表情から見てとれる。



「……ごめん」



―――ああ、やっぱり。

その名前で繋がるのは、あの見覚えのある笑い方。

雰囲気は正反対だけれど、笑い方が小鳥さんに似ていたのを見て、もしかしたらお姉さんなのではないかと不意に過っていた。



それがまんまと的中した今、更に深く思い出されるのはあの言葉。


二人には”そういう関係があった”という話。

詳しくは知らない。いや、踏み込む事を許されなかった。だからそれ以上は知らない。



でも、今、この現場を見て、どう見ても”なにもなかった”二人には見えない。

他者から見て、ただの幼馴染という関係を超えているような空気にしか捉えられない。

足が竦みそうになる。なんで。どうしてたらいいか分からない。
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