溺れるように愛して
「……花咲さん」


ぴくり、と。過剰に跳ねた体。それが恥ずかしくて、ごくりと唾を飲んでは「なに?」と控え目に声を震わす。

何を言われる?何か語られる?


どう見ても、どう考えても、この場にわたしは相応しくない。邪魔者だ。

状況を理解出来ていない部外者が、二人の間で右往左往しているだけの壁でしかない。


「……ごめん、今日は帰ってくれる?」
「え……」


戸惑い、不安、緊張、それが全て如実に表れるように安易にもれていった音。


無機質で、けれども表情が硬い彼の顔を見て、わたしは伏目がちに何度か瞬きをする。自分に言い聞かせるように小さく頷き、枯れを覚えた喉で「…うん」と飲み込んでみせた。


なんで?どうして?


疑問に縛られるように上手く顔が作れない。

平気なふりを見せなければ。へらっとしていなければ。こんな弱いとこ、こんな恥ずかしいとこ、見られたくない。大丈夫、大丈夫。
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