溺れるように愛して
「……そ、か」
「うん」
「……そ、か」
「なに」
「……もう一回話して?」
「絶対やだ」


――ああ、単純だ。

彼女が放った言葉の数々を、聞き心地の良い音を、わたしはずっと聞いていたいと思った。


正論しか言わない彼女が「わたしの話には価値がある」と言ってくれた。

言葉数の少ない彼女から、こんなにもたくさんの優しさをもらった。



それだけで、もう一人で大丈夫だと思えたんだ。

一人になる事が嫌だと思っていた数十分前とはまるで別人になったような心の軽さだった。



「さえちゃん、優しいなぁ」
「その名前で二度と呼ぶなって言ったでしょ」
「いいじゃん、たまには」


紗子さえいれば、なんて思ったりはしないけど、紗子がいてくれて、とは思う。

わたしの話に価値があるなら、それはきっと紗子という存在がいてくれたことなのだと、柄にもなく彼女に思ってしまった。
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