溺れるように愛して
「――花咲さん」
それから、と邪念を振り払うように動かしていた思考がぴたりと止まる。
声の主へと弾かれるように顔をあげれば、首元に黒いマフラーを巻いた夏目くんが立っていた。
「え……」
せめぎ合う鼓動に声が上手く出てこなかった。
なんで、夏目くんが立ってるの……?
ここは学校で、教室で、放課後で。
まだクラスメイトだって残っているこの空間で、一瞬の静寂が訪れるように包まれた。
「話があるんだ」
わたしを映したその瞳には曇りなど一つもないような色をしていて。
わたしの心境などお構いなしとでもいうのかのように、彼の双眸は降り注ぐように落とされる。
「……は、なしって」
唇が微かに震える。隠したくても、生まれてしまった動揺が露呈してしまう。
話って。でもそれよりこの状況って。大丈夫なの?色々と。