溺れるように愛して
「まぁ、拒否権なんてないんだけどね」


そう言ってはわたしの手首をぐっと掴み、強制的に椅子から立ちあげられる。

その力強さには思わず声を失い、余韻を残さないような早さで教室をあとにした。

キャーと色めきだった声に見送られるよう校舎を抜けていく。


「え、ちょ、夏目くん」


わたしの声はきっと彼には届いているだろうけど、それに反応する事はなかった。

ただわたしの前を歩く大きな背中を見つめながら、なんで、なんで、と疑問に駆られる。



さっきまで友達と話してたじゃない。
今日は一度も目を合わせなかったくせに。
昨日はわたしを帰しておいて。


そんな悪態さえつかせてもらえない程、彼のペースにどっぷりとハマってしまった。

気付けば靴を履き替えて、気付けばバス停について、当たり前かのようにバスに乗せられて。

ようやく彼が口を開いたのは、車内で肩を並べて席についた時だった。
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