溺れるように愛して
「でもそれ以上は何もないよ。好きだったけど、押し倒したいとか思わなかった。キスして思ったのは、俺が抱いてたのは好きじゃなくて、憧れだったって気付いたから。だから関係としてはキスだけ。でもそれで互いに気まずくなるのを避ける為に、キスしたっていう罪悪感から逃れる為に、ハウスキーパーしてたあの人と正式に契約を結んだ。普通に戻れるように、幼馴染じゃなくて、別の形で、関係を正当化しようとしてた」
「……小鳥さんは」
「俺があの人を好きだって穂乃花は察してたと思う。結婚前に俺とキスしてんの見て、多分まずいものを見たって周囲に黙ってくれてる。何もなかったようにしてくれてるけど、あの人の事は多少恨んでるところもあると思う。結婚すんのに俺とキスしてんなんて旦那に裏切り行為してるようなもんだから」
「……知らないの?浮気されてたこと」
「言ってないみたい。旦那の体裁守るために、墓場まで持ってくって決めたらしい。だから穂乃花は知らない。俺にも軽蔑してると思う。でも、それを隠すみたいに幼馴染の関係を続けようとしてくれてる
「……それって」
「あの人が不憫?でも、家庭ってそんなもんじゃない?幸せそうに見える家族だって、それは外側から見ただけの話であって、もしかしたら子供の為に笑顔の仮面被ってるだけとか多いし。夫婦仲がいくら冷めてても、簡単に別れるなんて難しいと思うよ。当人だけの話じゃなくなるから。互いの家族だったり、職場だったり、いろんなものが足枷となってつきまとって離婚に踏み切れない。カップルと違って、誓いを交わした夫婦の別れってそれ相応のリスクがあるようなもんだし」
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