溺れるように愛して
物理的に近くなった距離とともに、すぐそばでしゃがんだ彼と目が合う。

黒い髪は夕日で少し赤く染まっていて、反射するようにシルバーのピアスが光っている。

ぼろぼろと頬を伝う涙を彼は人差し指でそっと拭う。


「ごめん、抱きしめてもいい?」



そんな控え目な彼にわたしは首を横に振る。小さな小さな強がりに、彼はふっと笑って「そっか」と呟く。

その言葉とは反するように、ぐっと後頭部を引かれ彼の胸にぽすっと当たる。


「拒否られても、抱きしめるつもりだっけど」
「……じゃあ聞かないでよ」
「うん、ごめんね」


今日の夏目くんはわたしに謝ってばかりだ。

それだけ、今までの関係に少しでも罪悪感を抱いていたのかもしれない。


「ちなみに誤解されないために言っておくけど、昨日花咲さんを帰したのは、あの人とちゃんと話をする為だよ」
「はなし?」
「うん。もうここには来ないでほしいって。好きな子しか、もう部屋にいれないって」
「……それ、わたしって思ってもいいの」
「ふっ、花咲さん以外、誰がいんの?」


目細めて呆れたように笑みをこぼす彼に、また涙が溢れた。
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