溺れるように愛して
花咲天音。

控え目で目立つようなタイプではないけれど、滲み出る品の良さに惹かれた。
もちろん顔がタイプだったというのが一番の要素ではあるけど、そこはあまり声を大にして言わせないでほしい。

色白で、指が細くて、髪の艶が綺麗で、笑い方が可愛くて。
すれ違いざまに香った匂いにまんまとノックアウトされた話も出来れば内密にしたい。

男友達はいないようで、決まって同じクラスの門松紗子とペアでいる事が多い。


男に免疫はなさそうな印象だけれど、密かに彼女を好いてる男が多いのは事実だ。

いつ彼女が他の男に取られるか心配で仕方がない。といいつつ、何も行動出来ない俺が言えた立場でもない。

こんな俺に好かれていると知ったら、彼女はどんな顔をするんだろうか。


このバスの中だけだ。野次馬も敵もいないのは。


「おはよ、朝陽」
「……」


いや、野次馬は約一名いた。すっかり忘れていた幼馴染の登場にげんなりとした顔を返せば「朝から元気ないねぇ」と笑われる。


この幼馴染は俺が後ろの彼女を好きでいる事がとっくにバレているのかもしれない。
そうでなければチラチラと俺と彼女を見比べたりはしないだろう。
行動に移せていれば、俺の横にはこの幼馴染ではなく、彼女が座っていたんだろうか。
そう思うだけで、実際は毎日変わらない日々を過ごしている。
< 237 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop