溺れるように愛して
何度か話しかけようとはした。バスでも学校でも。


それでも気軽に話しかけられるような雰囲気を彼女は纏っていないし、そもそも俺もフランクに近付いていけるスキルを持ち合わせていないのであえなく断念。

断念に断念を重ね、結果的に小心者の出来上がり。

彼女の前に座る事でさえ勇気がいるのだから、俺はいっそ小心者界のトップに輝けるかもしれない。



うだうだしてると、変な男が彼女をさらっていくかもしれない。


俺はそれを黙って見てるだけになるのか。
それはめちゃくちゃ腹立たしい。彼女を好きでいる期間は断トツ俺の方が長いはずだ。

――いや。

そもそも架空の男に喧嘩を売ってどうする。
そんでもって好きの期間が長いからってそれがどうした。

彼女のことになると珍しくネガティブな思考に走っていく。

これだから恋愛というのは厄介だ。



「はぁ……」
「なに、朝陽が溜息?」
「うるせ」
「またまたぁ。あの子でしょ」


ちらりと後ろに視線を送った幼馴染に「見んな」と控え目に一喝。

やはり分かっていたらしい。

後ろの彼女に好意を寄せている事に。

いっそ、この幼馴染と彼女で席を交換してくれないかと思う。

もしくは、堂々と彼女の横に座れるだけの度胸が欲しい。
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