溺れるように愛して
「そっか。うん、ごめん。俺、誰かと付き合う気ないんだ」


口に運んだ焼きそばをごくりと飲み込んでは、躊躇うことなくきっぱりと断りの返事をした彼。

優しさ、とか、言葉を選んで、とか。

そんなものは彼に存在しないみたいで「だから、俺はやめといた方がいい」なんてフォローにもならないようなことを言って、一年生の彼女の肩を落としていた。


”夏目朝陽は、誰からの告白も受けない”


これは、この生徒の大半が把握している彼の情報だ。

今まで告白された回数と断ってきた回数は同じ。一度だって誰かと付き合うこともなかった。

そんな彼に告白をするのはよっぽどの自信家か、それなりの勇者か、何も知らない新参者か。

大抵はこの三種類に分類されてしまうのだけれど、彼女はどうだろうか。やはり一年生ということもあって新参者に近いか。

季節は冬。2学期を終えようとしているこの時期。彼を好きだというのなら、彼が告白をしても受けないことは知っていたのではないか。そうすると勇者に当てはめた方が適切かもしれない。


「……そうですよね。いきなり、すみません」


全身の力はようやく抜けたよう。少しばかり切なげな表情を浮かべる彼女はそのまま続けて「どうして彼女作らないんですか?」と彼に尋ねた。

ああ、やっぱり彼女は勇者だ。そんなことが聞けるだけの勇気がある。

食べかけの焼きそばパンを未だ片手に握る彼はその質問に対してこう答えた。
< 35 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop