溺れるように愛して
ぱたぱた、と。階段をおりていくような音が聞こえた。

二人の会話はあれっきり長く続くことはなかった。

「そうですか」とか「どうしてですか」とか質問していた声は聞こえたけど、その問いの返事を彼の口から聞けることなかったし、表情で何かしらのアクションは起こしていたかもしれないが、私には死角になって彼の顔を確認することは出来なかった。


「盗み聞きが趣味?」


階段から視線を外し、壁に凭れるようにしてその場に立ち尽くしていた。

彼の言葉の意味をあれこれ考えていれば、階段から声が聞こえる。どうやらこの角を曲がったすぐそこに、同じように壁を凭れている彼がいるらしい。声が間近に聞こえる。


「……たまたま聞こえてきたんだよ」

「たまたま、ね」

「なに」

「花咲さんはよっぽど俺のことが好きなんだなぁって」

「言ったでしょ。たまたまって」


いつから気付かれていたのか。この口ぶりだと、とっくに私がここにいることがバレいたらしい。

顔も見えない。声だけが聞こえる。学校でこうして話をしたのは初めてかもしれない。
< 37 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop