溺れるように愛して
意味もなくボリュームを下げるのは、なんとなく音で彼の全てを消してしまいたくないから。

スマホをタップするような些細なものでさえ、耳をすませていたくて、いつしかそれが無意識に習慣化している。


「おはよう」なんて、私達が交わす事なんてない。
「昨日ぶり」なんて、白々しい事も出来ない。

傍から見れば、私達は同じ制服を着て、同じ高校に通って、同じ教室に入るだけのただのクラスメイト。

それだけ、あくまで、それだけの関係だから。

誰も、私達が昨日、いやそれ以前から、ベッドの上で交友を持つなんて思いもしない。


「―――おはよ、朝陽」


雑音が、消える。イヤホンから流れてくる音楽だって、その時だけは遠のいていく。
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