溺れるように愛して
最後まで、他人のフリを続けた。一言も発さず。

遠ざかっていく後ろ姿を見送りながら、駅構内へと向かっていく彼に目が離せなかった。


「花咲って電車詳しい?」

「え?」

「この駅行きたいんだけど」


そう言って乗り換えアプリの画面を見せられるものの、咄嗟に言葉が出てこないのは、普段決まった電車にしか乗らないから。

夏目くんの家に行く時の電車しか分からない。


「あー……どこだろ、1番か2番のどっちかなんだけど」


小さな駅。いくつも路線がある訳じゃない。けれどもその二択がどうも簡単に出せなかった。

どっちだろう、なんて二人続けながらスマホの画面に釘付けになっていたとき、


「どうした?」


その間にひょいっと現れるようにして見えた男子の制服。

川瀬くんと同じタイミングで画面から顔を上げれば、


「っ、」


―――見送ったはずの、夏目くんが何食わぬ顔で立っていて。


「電車分からないなら教えるけど」


なんて、爽やかな笑顔で入ってくるものだから、わたしは見事に思考が真っ白になって。

そんなわたしを見透かしたような顔で、


「どうしたの?花咲さん」


ただのクラスメイトのフリを続けた。
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