溺れるように愛して
電車はよく揺れる。立っているなら尚更だ。

つり革、もしくは手すりを掴んでないとバランスを崩し、そのままよろけてしまう。

わたしの心も今、そんなような心境を迎えているのかもしれない。


「パフェ?川瀬って甘いの好きなんだ?」

「甘党だけど、ここがまた男子だけだと入れてくんねぇーんだよ」

「へぇ」


油断すれば、すぐに何かのバランスが崩れていくような気分。

川瀬くんに対する思いと、夏目くんに対する思い。

複雑な心境は、この電車のようにがたがたと揺れている。右に左に。


「いやぁ、夏目がこっちに用事があるって言ってくれて助かったよ」

「ああ、まあ帰り道だし」


飄々と。人の気持ちは知らないで、普段男友達に見せてるような顔で談笑を続ける。

「帰り道」なんて、大噓つきだ。何せ進行方向は反対だもの。あなたがいつも乗るのは路線を挟んだ向こう側の電車だったはず。


「花咲さん?」

「っ」

「やっぱりさっきから変だけど、バスの時から酔ってるんじゃない?」


片手でつり革を握った川瀬くんが、心配そうな素振りを見せてくれる。
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