溺れるように愛して
「おお」


可愛いを全身に纏ったような女の子の登場に、彼の頭は左へと意識が逸れる。

ゆるふわなカールを二つに結び、下着が見えそうなぐらい丈の短いスカート。薄っすらとした化粧は、悔しい程によく似合っている。

音量を静かにあげていく。彼の声は聞きたい。でも2人の会話は聞きたくない。


「ギリギリ間に合ったぁ」

「次のバスにすればいいのに」

「やだよ、朝陽と一緒がいいもん」


それでも、音漏れのことを考えるとそこまでボリュームもあげれなくて。会話を遮断することは出来ない。

ふふ、と同性ですら胸がときめいてしまうような笑い方に、いよいよ視線は車窓奥へと向けた。

私達は、人から知られるような関係ではない。

彼には、彼女同然の可愛い幼馴染がいるから。決して誰にも邪魔出来ない、二人だけの世界があるから。

肩を並んで座るその後ろ姿は、彼女の化粧よりも、断然よく似合っていた。
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