溺れるように愛して
「それがさ、」


そう切り出せるだけ、わたしの肩の荷はぐっと降りる気がする。

モヤモヤした感情がすぅーっと消化されていくような、そんな気分。

話すことで楽になる。根本的なものは解決されないかもしれないけれど、言葉にすることで自分の頭の中も整理出来る。

昨日の出来事を、夏目くんという名前だけ伏せてあらかた話をした。

好きな人と遭遇して、気まずくて、途中まで一緒に行ったということ。


「え、なに。向こうは天音のこと知ってんの?」

「え?」

「話したことあるの?」

「あ、……ある。すこし」

「ふーん?」


彼女には夏目くんと放課後、ちょっと厭らしい関係ですとは伝えてない。

好きな人がいて、その好きな人に幼馴染がいて、毎朝バスでその光景を見てるということぐらいしか。

わたしの違和感に彼女はすぐ気づいたようだけど、黙って目を瞑ることにしたらしい。


「駅も反対方向なのに、なんでかなって」

「反対方向って知ってんのはなんで?」

「っ……なんとなく」

「はぁ。なんとなくね」


それでも辻褄の合わないことが多く出てしまうわけで。
< 64 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop