溺れるように愛して
「俺のことを忘れさせないように、って風にしかわたしは思えないけど」

「そ……んなこと、ある?」

「さあ?本当のところは知らないよ。でも、わざわざ一緒に電車に乗り込む必要はないでしょ。反対方向なら尚更ね」


腑に落ちる点しかなかった。

彼が考えていることは分からないけど、ずるい彼ならやりかねないと思った。


「ましてや用事があるから、ならまだしも、帰り道なんてあえて嘘をついてるようにしか思えないけどね」

「あえて……」

「そう言うことで、更に天音はその好きな人の嘘で頭を抱える訳なんだから。思惑通りじゃない、彼からしてみれば」


その通りだ。本当に。

その嘘でわたしはまた悩んで、答えが出なくて、川瀬くんといても上の空で。

そうさせることが狙いだったんだろうか。


「……どうしよう」

「なに?」

「わたし、どんどん沼にハマっていく気がする」

「そうね。女心を扱うのが上手いみたいね」


―――どこまでも、どこまでも、本当にずるい。

答えを出さないあたり、達が悪くて、そして、彼という沼に深く沈んでいく。
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