溺れるように愛して
気が緩むと寝てしまいそうで、けれども、この心地の良い揺れと、温かい車内では、寝るなと言われる方が無理な話な訳で。

うとうと、と。眠りの世界に誘われる。

眠い、このままもう寝て……いや、だめだ、テスト……テストが……。

意識はわたしの意思とは関係なく、静かにフェードアウトしていった。

だめだ、だめだ、と、わたしは一体どこまで自分を保てていたのだろうか。


「っ」


こてん、と。頭が落ちた勢いで意識を取り戻す。

まだわたしは揺られていた。変わり映えしない、いつもの車内で。

変わったことと言えば、満員になっているはずの車内ががらんと人を失っていること。


「え……」


次の目的地は、普段聞き慣れない市民病院前で停車するとアナウンスが流れる。

寝過ごした。

そう思った瞬間に急いで立ち上がろうとすれば、右手を勢いよく引かれ、危うくバランスを崩しかける。


「なに呑気に寝てんの?」

「えっ」


わたしと同じ制服を着た生徒はいない。隣りの彼を除いては。
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