溺れるように愛して
朝見たばかりの黒髪に、シルバーのピアスが光っている。不愉快そうに顔を歪めている彼は、どうしてだかわたしの隣りに座っている。


「な、んで。え、」


言葉がつっかえる。

もう高校はとっくに過ぎて行ったというのに。もうここにはいるはずもないのに。

わたしと同じように、違和感として残っている彼、夏目くんが、そこにはいた。


「なんでって、どっかの誰かさんが寝てるから」

「え……いや、起こしてくれれば」

「んーなんかいいかなって」

「いいかな……?」

「花咲さん、気持ちよさそうに寝てたから」


すでにわたしの右手首から手を離し、マフラーに顔を埋めていく。

その姿を見ながら「なら降りたら良かったのに」と驚きを交えながら返す。

そんなわたしに彼は「ね」とだけ呟いては、長い睫毛を落とすように目を伏せた。

ね、ってなんなんだろうか。

肯定だけされたところで納得のいく返事はもらえない。

それでも彼は答える気がないようで、狸寝入りを続ける彼に「えー…」とだけ溢して見せた。
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