溺れるように愛して
車窓の外を眺めながら、束の間のぼんやりとした時間を過ごす。

見慣れない景色、見慣れないバス停

どれもが新鮮で、これといって特徴のない建物でさえ目で追うように流して見ていた。


「……あ」

「ん?」

「テスト」

「あー」


車内の時刻は8時25分。

ここからバスを乗り換えて戻ったとしても、どれだけ全力疾走をしたとしても、テストの時間には間に合わない。


「どうしよ……遅刻なんて初めてだ」

「へぇ、真面目」

「夏目くんはあるの?」

「まぁ、たまに」


そうだっけ?なんて記憶を遡っていけば、確かに何度か遅れて登校していた日があったことを思い出す。

言うなれば常習犯で、真面目なわたしとは違って、今もどこか余裕の表情を見せる。


「学校に連絡した方がいいかな」

「いいよ、腹が痛いってことにしてあるから」

「ん?」

「花咲さん、腹痛でトイレから出られないのを俺が見つけたって言った。それを見て、俺も腹が痛くなってきたからって言ってある」

「……なにそれ、あと誰に?」

「後藤」

「……ありがとうと言っていいのかよく分からない」

「いいよ。気にしないで」

「う、ん?」
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