溺れるように愛して
おかしな遅刻理由を同じクラスの後藤くんに連絡してくれたらしい。

そんな理由が通るのか謎で仕方がないが、かといって今更どうこう出来る問題でもない。

彼が隣りにいるということは、わざわざ席を移動したんだろうか。

そもそもわたしが寝てると気付いたのはいつから?降りる時もわたしを気にしていたのか?


「なに?」


じっと、彼の横顔を見たって、わたしを気にしていたようには見えないが。


「……いや、なんでも」

「そ。じゃあ、次で降りよ」

「え」

「このままサボろ」





たとえば好きな男の子から「サボろう」なんて非現実的な誘い文句を受けて、バスに揺られながら行き着いた先は海が一面広がるような光景だったら、わたしはもっとその男の子を好きになっていたと思う。


「……なんで、ここ?」

「俺が行きたかったから」

「……そう」


目の前に広がるのは青く澄み切った海、なんてロマンチックなものじゃない。

彼に連れてこられた場所は見知らぬ神社。赤い鳥居を立派に構えた、街中によくあるような小さな神社。


「今の時間、どこ行ったって通報されるだけだからな。こう、人目のないところに行くのがポイント」


サボリの先輩はわたしにそう伝授する。ましてやここは階段が長く、人はあまり訪れないとのこと。

確かにこの階段を上るのは気合がいる。インドア派のわたしにはこれを駆けあがる体力など持ち合わせていない。


「ほら、はやく」


そんなわたしに構わず、彼はひょいひょいと軽快なリズムでのぼっていく。

一段、二段、と飛ばしながら、息切れ一つすることなくあっという間に置いて行かれる。
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