溺れるように愛して
今朝の出来事を、川瀬くんに告白されたことを、わたしは紗子に伝えていない。

タイミングを見計らって……というのも一理あるが、正直なところ言い出しにくい面もあった。

自分が告白されるというのは人生で初めてだから、どう打ち明ければいいのかも分からなかった。



「どうでもいいことはペラペラ喋るくせに、肝心なところは話してこないじゃん」
「あの……そう、ですね、すいません」
「で?どうなの?」


淡々と。質問を続けてくる彼女に、わたしは静かに頷いた。


「そ」
「なんで知ってるの?」
「川瀬くんから聞いたから」
「え?」
「本人が、休み時間わたしのところに来て”花咲に告白したから、花咲少しおかしかったら話聞いてあげて”って」
「……そっか」


知らないところで彼が気を遣ってくれていたことを知り、何とも言えない気持ちが増す。

優しさが染みて、痛くて、向き合えなくて。


「その様子だと返事してないみたいね」
「……うん」
「川瀬くん、すごい良い人そうだけどね」
「……ほんとうに」
「それでも、好きな人がいいの?」
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