溺れるように愛して


「っ」
「なに、入んないの?」


ぐるぐると考えた。自分の好きも消せるんじゃないかと押し込めたりもしたけれど、結局わたしが行き着いた先は、いつも通り、夏目くんの部屋だった。

玄関先で立ち止まるわたしを見て、怪訝そうなその顔つきに一瞬引き返そうとしたけれど「……お邪魔します」と気付けば控え目に呟いていた。


「最近美人なおねーさんは来てないの?」
「来てないよ。同じペースで花咲さんが来て掃除してくれるから」
「わたし、それ仕事としてお金もらっていいんじゃないかな?」
「あげてるじゃん。身体で」
「……またそうやって平気な顔して」


彼と一緒にいると、まんまと流れに乗せられてしまう。

好きな人といると、罪悪感は残りながらも、この空間を自分から壊せない。

だって、好きなんだもの。

好きな人の部屋に囲まれて、好きな人と一緒にいれたら、それだけで幸せなんだもの。


それを自分から壊すことなんて今の自分には出来ない。
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