月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 紅くんの銀色がきらきらと瞬く。

 風に乗せるように静かな口調で告げられた。



「茜、俺と結婚しよう」



 同時に差し出されたのは、深い愛情の象徴とされるルビーの指輪。

 私と紅くんの色だ。

 夕日に照らされ、情熱の赤色がより濃く映る。



「これ・・・」

「婚約指輪。茜と再会したらもう一度プロポーズからちゃんとやり直したいって思ってたんだ」



 紅くんが伏し目がちに笑った。

 その笑い方が昔の姿と重なり、胸がきゅぅっとないた。

 視界がぼやけて、紅くんの輪郭が曖昧になる。


 私は愛を知らない。

 親から愛情を貰えなかったから。教えてくれる人がいなかったから。

 でも今は違う。

 紅くんの表情が、言葉が、私の頬を伝う涙が、胸に湧き上がるぬくもりが、これが愛だよって教えてくれる。



「紅くん」

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