月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 私の言いたいことがちゃんと伝わったから、鈴木真那の顔がちゃんと歪んだ。



「・・・っくそ、俺の人生何なんだよ。せめてお前ぐらい振り向いてくれてもいいだろ。何であいつなんだよ」



 悔しそうに気持ちを吐露する鈴木真那の爪が食い込んで痛い。

 まるで心の傷を私に見せつけているかのよう。



「痛いから離して」

「嫌だ。離したらどうせあいつのところに行くんだろ」



 あり得ないことを呟く鈴木真那は、捨てられた子犬みたいだった。

 それでも私は鈴木真那を突き放さなければならない。

 紅くんのことが好きな私が、私のことが好きな鈴木真那に同情しても何にもならないから。



「紅くんは私が嫌がることは絶対にしないよ」



 鈴木真那は私が好きで逃がしたくなくて手首をきつく掴んでいる。
 鈴井雛菜は紅くんが好きで私が邪魔だから拉致した。

 どちらも間違っている。


 こんなの私の知ってる"好き"じゃない。


 紅くんはいつも「嫌だったら言ってね」と私を気遣ってくれる。
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