月ノ蝶、赤縄を結ぶ
最悪を想像し、グッと唇を噛んだ。
昔、茜の父親について調べたことがある。
茜の母親がいないから家で独りぼっちだという発言が引っかかったからだ。
元々茜の母親は結婚しておらず、茜は関係をもった数多の男性の内の誰かの子らしい。
顔立ちは母親似だが、髪と瞳の色は母親と母方の祖父母と全く異なったので父親譲りだろう。
それを元に調べたが、正直父親を特定するのには骨が折れた。
茜の母親と関係をもった男性が多すぎるし、その上隔世遺伝の可能性も考慮して祖父母まで調べなくてはならなかったからだ。
それでも途中で投げ出すことはしなかった。
だって茜の髪色は珍しいから。
紫がかった黒髪は茜以外だと1人しか出会ったことがない。
偶然ですませたかったが、万が一がある。
もし茜が"あの人"の血縁者だったら、茜が面倒臭いことに巻き込まれてしまう。
どうか違いますように。茜が平和に暮らせますように。
そんな俺の願いは叶わず、茜はれっきとした"あの人"の孫娘だった。
でもそれが茜を手放す理由にはならない。
一生"あの人"に見つからないように守っていこうと覚悟していたくせに。