月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 記憶が正しければ、茜と再会するために現住所と通っている高校を調べたときに。



「撫子。茜の養護施設の資料はあるか」

「ここに」



 撫子がタブレットを俺に渡した。スワイプして見ていく。

 ───いた。

 茜が児童養護施設で暮らしていたときの名簿の中に『鈴木真那』という名前があった。

 3年前──鈴井家を取り壊した年──に入所したらしい。

 鈴井家があった場所とその施設はかなり離れているから、日暮組の手によってそこに連れてこられたのは明白だ。

 目的は茜と接近すること。

 茜は"あの人"の孫娘だから、味方につけるつもりだったのだろう。

 鈴井雛菜の恋心を利用して拉致したのも同じ理由からだ。

 もっとも、鈴井雛菜本人は茜を処理する気満々だったが。

 どうせ日暮組は俺との婚約を確実なものにしてやるとか言って茜の所有権を奪い取るつもりだったんだろうな。

 どのみち気分が悪い。

 だがそれこそが違和感の正体だった。

 日暮千歳ほど狡猾で用意周到な人間が拠点を幾つか潰されたからと強硬手段に出るだろうか。
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