月ノ蝶、赤縄を結ぶ

「お家?」

「違う、楝だ。君の父親の名前だよ」

「知らない」



 初耳だ。

 なんでこの人が知っているんだろう。



「まぁ見てもらった方が早いか」



 日暮千歳は私を向かいのソファーに座るように促した。

 そして後ろに控えていた部下に指示し、2枚の写真を机に並べた。

 どちらにも私と同じ紫がかった黒髪をもつ、2人の男性が写っていた。

 左側の人に至っては目の色まで一致している。



「左が時峯楝。君のお父さんだ。そして右が時峯藤治。君のお祖父さんであり、時峯家の現当主だ」

「へぇ・・・。それで?」

「もう驚かないんだね」

「うん」



 正直めちゃくちゃ驚いたけど、表情に出なくてよかった。

 この場ではちょっとの油断が命取りになりかねない。

 隙を見せたら最後、この古狸に言いくるめられて終わる。
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