月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 最初に「時峯茜」って呼ばれたときに血縁関係か何かだろうって予想出来たおかげで動揺を悟られずにすんだ。

 日暮千歳は「肝が据わってるねぇ・・・」と言いながら足を組み直した。

 ややあって日暮千歳が言う。



「君にはそこの鈴井真那くんと結婚してもらう」

「嫌」



 即刻拒否した。

 冗談じゃない。

 私が紅くんと婚約していることを知らないわけがないのに、この人は何を言ってるんだろう。


 日暮千歳は呆れた目で私の婚約指輪を見て溜め息をついた。



「やれやれ、わがままを言える立場じゃないってまだ分からないのかい」

「言える立場だよ。だってあなた達は私を殺せないじゃん」



 確信をもって断言した。

 時峯藤治はこの島で絶対的な権威をもつ存在。たとえ黒いものでも、彼が白と言えば白になる。

 その孫である私を殺せば、日暮千歳は本当に終わりだ。

 組長の座に執着した彼がそんな愚行をするわけがない。
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