月ノ蝶、赤縄を結ぶ



 私を胸に抱きながら、紅くんが周囲を威嚇するように鋭い視線を投げかけた。

 誰も身動きがとれない中、涙が治まってきた私が紅くんのシャツをクイッと引っ張った。



「紅くん」

「ん?」

「ここヤダ」

「じゃあ帰ろっか」



 とにかく今はお家に帰りたい。

 紅くんに手を引かれ、ここを去ろうとすると、呆然と突っ立っている鈴井真那が視界に映った。

 今にも泣きそうな顔をしている。

 帰ろうと思ってたのに、不思議と足が止まった。



「待って、紅くん。言い忘れてたことがあったんだった」



 紅くんと手を繋いだまま、鈴井真那の前に歩み寄った。

 ビクりと肩を揺らし私を見下ろす鈴井真那に短く告げる。



「ありがとう、鈴木真那」



 お礼を紡ぐと、鈴木真那の目が大きく見開かれた。
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