月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 シトラスの匂いが鼻腔をくすぐる。

 あぁ、紅くんがいるんだなって安堵した。



「ねぇ、どうやってここに来たの?見張りいたでしょ?」

「昨年からちょっとずつ侵入経路を作ってたから問題ないよ」



 サラッと言われたけど、これは凄いことだ。

 一年過ごしてみて時峯邸の警備の厳重さは嫌というほど分かっている。

 尊敬の眼差しに向けると、頬を撫でられた。


 あ、される。


 そう思ったときには唇が重なっていた。

 角度を変え、渇きを癒すように啄まれていく。

 舌でつん、と唇を誘惑された。

 それに応えるように唇を少し開けると、舌を絡め取られた。



「んんっ」



 与えられる好意とくちゅくちゅとなる水音にすっかり夢中になり、紅くんのことしか考えられなくなる。

 息が切れたときには、紅くんが私を組み敷くような体勢に変わっていた。
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