月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 ちなみにベールにはふたりの間にある障壁という意味があるらしい。


 今、それが取っ払われた。



「では、誓いのキスを」



 牧師の言葉を合図に口付けを交わした。


 いつもするものとは違う、浅くとも、深い意味をもつキス。


 10秒にも満たない短い時間が永遠のように感じられた。

 わぁぁああという歓声がどこか遠くに聞こえる。

 まるでふたりだけ別の世界に切り取られたみたいだ。



「好きだよ、茜。永遠に好き」



 私の耳には紅くんの紡ぐ言葉だけが明瞭に聞こえる。



「私も紅くんがずーっとずーっと好きだよ」



 たまらなくなって、他に人がいることも忘れてぎゅーっと抱きついた。

 私の全てを受け止めてくれる、温かい人に。
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