月ノ蝶、赤縄を結ぶ

「俺は月詠紅(つくよみ べに)

「どうかくの?」

「こう」



 王子様はそこら辺に落ちていた木の棒を使って砂に文字を書いた。

 習字のお手本に使われそうな綺麗な字で『月詠紅』と書かれる。

 ひらがなですら上手く使えない私にとっては感動ものだった。



「わぁすごーい!カンジだ!わたしまだよくわかんない」



 目を輝かせながら王子様と文字を交互に見ていると、王子様がまた枝を走らせた。



「こちょうあかねってこう書くんじゃない?」

「! そう!おにーちゃんすごい!」



『胡蝶茜』と見たことある漢字が綴られている。

 惹かれるままにそれをなぞった。



「おにーちゃんじゃなくて紅でいいよ」

「紅くん!」



 ぴったりとくっついて「もっとカンジかいて!」とせがむと、紅くんは小さく笑いながら私が飽きるまで付き合ってくれた。
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