月ノ蝶、赤縄を結ぶ



 素直に答えると眉間に皺を寄せてしまった。



「なんで俺に言わなかった」

「言ったらどうするつもりだったの?」

「そりゃ注意したわ」

「そんなことしたら余計悪化するって分からないの?だから言わなかったんだよ」



 鈴木真那は何も言えなくなり押し黙った。

 心底悔しそうに俯かれてもかけてあげられる言葉はない。



「私、帰るね」



 横を通り過ぎても呼び止める声は聞こえなかった。

 帰るタイミングで雪が降り始めた。





 1月16日。

 この日になると、紅くんとの最後の日を思い出す。

「またね、茜」と涙を滲ませながら微かに笑っている。

 その光景が脳裏をよぎる度に胸がとてつもなく締めつけられる。

 いつもは他の楽しい思い出ばかり思い返しているのに、この日だけはそうはいかない。

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