月ノ蝶、赤縄を結ぶ
 毎年毎年繰り返し繰り返し増えることのない過去ばかりに縋っている。

 そんな私を世間が知ったら憐れむと思う。

 いい加減前を向け、現実を見ろと説得するに違いない。

 でも私はこれが不幸せだと思っていない。

 むしろ現実と向き合う方が私にとっては辛い。

 幾ら目を凝らそうが、そこに紅くんはいないのだから。


 感傷に浸っていると鈴木真那が後ろから話しかけてきた。



「今日放課後ちょっと話せね?」

「・・・いいよ」



 いつもなら迷うことなく断る誘いだけど、今日だけは特別。



「誕生日おめでと」

「ありがと」



 だって鈴木真那がコンビニで肉まんを買ってくれるから。

 誕生日より一日早いけど、当日は養護施設で誕生日会をするから寄り道できないから毎年16日に祝ってくれる。

 パクッと肉まんにかぶりつくと、肉汁がじわぁと口内に浸透した。

 美味しい。人のお金で食べるレジ横商品は格別に美味しい。

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