月ノ蝶、赤縄を結ぶ
「そんなの本気にしてんの?」
「うん」
「相手が忘れてるかもしれねーのに?」
「うん。それでも待つよ。ずっと待ってる」
それが10年でも20年でもそれ以上でも。
鈴木真那は理解できないとでも言いたげに顔を歪めた。
これが一般的な反応だ。
「・・・そんなにそいつが好きなのかよ」
「そうだよ。大好きなの」
人は相手の声から忘れていくと言うのに、私は今も紅くんの声をはっきりと再生できる。
「茜」って夜の静けさを集約したような澄んだ声で呼んでくれるの。
「好きだよ」っていつも伝えてくれるの。
思い出したらどうしようもなく会いたくなった。
私の心は今もあの頃に取り残されている。
鈴木真那はもう何も言わなかった。
雪がしんしんと積もっていくのをぼんやりと眺めていた。