月ノ蝶、赤縄を結ぶ
 しばらく膠着状態が続いた後、痺れを切らした女の子達は去っていた。

 誕生日なのについてないなぁと独りごちた。






 結局あの子達は鈴木真那に報告したらしく、6時間目が始まる前に本人から「怪我はないか」と心配された。

 まさか自分たちがきっかけで会話を交わしているだなんて夢にも思っていないんだろうね。おめでたい。

 ぼんやりとしているとクラスで笑いが起こった。

 先生が教壇から落ちかけたらしい。

 多分その場面を見ていたとしても私は笑っていなかった。

 だって私は紅くんがいなくなってから一度も笑えていないから。

 ここ数年ですっかり心が凍結してしまった。

 私に向けられる感情が嫌悪や軽蔑、嫉妬、無関心なのだから仕方ない。

 それらに関してはとうの昔に諦めた。

 私のことを真っ直ぐに好いてくれるのは後にも先にも紅くんだけでいい。


 小さい頃は紅くんに対する「好き」が恋なのか単なる憧れなのかよく分からなかった。


 でも今は恋だって確信している。


 会えない時間が愛育てるというイギリスのことわざは言い得て妙だと思う。

 想いが積もり積もって恋になっていた。

 すぐに溶けてしまう雪が堆積するように。

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