月ノ蝶、赤縄を結ぶ
だって俺は月詠会の若頭だから。
茜には申し訳ないが早く切り上げて帰ろうと思った。
思ったのに。
茜がまだ独りぼっちだと知って突き放せなくなった。
俺に友達がいないのと茜に友達がいないのとでは雲泥の差がある。
俺は両親や周りが裏社会の人間ということでクラスメイトや先生に人殺しかのように恐れられ、距離を置かれている。
これは人として当然の反応だから何の不平不満も抱いていない。
俺自身はまだ裏社会の人間として何も成していないが、いずれ本格的に動き出すつもりだから、人殺しになるのが先か後かの違いだから。
けど茜は違う。
茜は母親が他の人の父親と不倫関係にあるというだけで避けられている。
当の本人は純粋無垢で母親と同じ道を辿るなんて到底想像つかないのに、周りは彼女を母親と同類かのように扱う。
そんな理不尽の中でも腐らず綺麗な目をしている茜に対し、庇護欲が湧いてきた。
だから、つい、家に招いてしまった。
これがどんな結末をもたらすのか分かっていたくせに。
茜と過ごす時間は想像していたよりもずっと充実していて楽しいものだった。